住まいの断熱化から独自に進化を遂げる施策へ
プカ太郎:神戸市さんが住まいの断熱化に取り組むきっかけをお伺いしたいです。
富本さん:「2050カーボンニュートラル」※1の実現の流れのなかで、住宅ストックの質の向上と流通促進に向けた取り組みの一つとして、住まいの断熱化に力を入れるようになりました。
プカ太郎:最初にどのような取り組みを行ったのでしょうか。
富本さん:住まいの断熱化の普及に向けて、住まいの温熱環境と健康との関係を知っていただき、自分事として考えていただけるような広報啓発から始めました。
後垣内さん:啓発の一環として、建築と医療の各専門家と連携したシンポジウムを開催するとともに、ヒートショックや熱中症対策の啓発にあわせて住まいの断熱化をお勧めするポスター・チラシを制作しました。
プカ太郎:行政がこのような取り組みを進めることにどのようなメリットがありますか?
富本さん:建築住宅分野から住まいの断熱化を啓発しても、住み替えやリフォームを考えている方には訴求できるかもしれませんが、そこまで考えていない方には響きません。行政では、様々な部署が連携することで、医療や健康など幅広い分野からアプローチできると考えています。
リーフレットはフレンドリーに
プカ太郎: 2025年にリーフレット「住まいと健康を守る断熱の知恵」を制作されました。

<リーフレット「住まいと健康を守る断熱の知恵」>
後垣内さん:リーフレットでは、自宅の寒さに悩んでいる方、寒いのが当たり前と思っている方などに、健康に暮らすための温熱環境の重要性を知っていただき、断熱化のメリットを広くお伝えしたいと思って制作しました。既存住宅の断熱性能をどう向上させていくかといった内容もまとめているので、ご高齢の方にも手に取っていただければと思います。
富本さん:まずは、温熱環境に興味を持ってもらうため、自宅の室温を測っていただきたいと考えています。そのうえで、「断熱化なんて自分には関係ない」と離脱されないように、カーテンを閉めるといった暮らし方の工夫から、「熱の逃げやすい窓だけでも改修しませんか?」から、ゾーン改修、フルリノベーションなど幅広く紹介しています。
断熱住宅を体験!しっかり知ってもらうための「スゴ!家」
プカ太郎:「スゴ!家」はどのような取り組みですか?
後垣内さん:断熱の良さを理解・納得いただくためにも、まずは高断熱住宅を体験してもらおうと考え、令和6年度にスタートしたオープンハウスイベントです。タイトルは、思わず「スゴ!」と言ってしまう家を体感してもらいたいという意図からです。
プカ太郎:直接的でわかりやすいですね!
後垣内さん:現在、断熱性能に力を入れている住宅事業者さんと連携し、市内にある高断熱のモデルハウスの情報を神戸市がホームページやSNSなどで周知しています。展示場ではなくまちなかにあるモデルハウスで、現在は市内15戸ほどあり、見学だけでなく宿泊体験ができるものもあります。

<第3回おためし「スゴ!家」ぐらし~こうべ健康省エネ住宅オープンハウス~>
プカ太郎:参加している住宅事業者さんはどのような反応ですか。
富本さん:市民の方がリフォームや住みかえを検討する際、どの住宅事業者を選んだらいいか迷った場合に、行政がモデルハウスを情報提供していることで、少し安心感があるかなと思っており、その点をメリットに感じていただけたらと考えています。「スゴ!家」を体験された方からの高断熱住宅の受注につながった例もあるようです。
後垣内さん:体験会への参加者も少しずつ増えています。従前の新築住宅・改修では断熱性能より見た目や安さが重視されがちでしたが、情報を自ら集めて高断熱住宅を検討するような方もかなり増えていて、住宅業界では高性能住宅づくりに取り組むことで他との差別化をはかる動きがあると感じています。
プカ太郎:体験・見学の来場者はどのような方が多いんですか?
後垣内さん: 若年子育て世帯が多いですが、ご高齢の方にも来場いただいています。
プカ太郎:取り組みを通じて、幅広い年代で断熱住宅への関心も高めていけそうですね!
富本さん: そうですね。比較的新しい住宅にお住まいのご家族が、築50年近くの住宅を断熱フルリノベしたモデルハウスに宿泊体験され、「今の家よりも断然あったかい!」と実感いただけたようで、体感することで納得いただける効果もあると思っています。
プカ太郎:宿泊体験を通じて実際に生活するイメージを持てたり、その経験が住宅を選ぶきっかけになったりしそうですね。
後垣内さん:まちなかモデルハウスなので実際の暮らしのイメージが湧きやすいのと、新築の戸建て住宅から中古マンションのフルリノベなど、様々な高断熱住宅を紹介しているので、自分のニーズに近い物件で体験できるというのもポイントだと思います。
神戸市ならではの課題にも立ち向かう施策「ミセリノベ」

<対談の様子>
プカ太郎:新たにスタートした「ミセリノベ」について教えてください。
後垣内さん:中古マンションの取得方法では、自分で物件を購入して事業者にリノベーションをお願いする「注文リノベ」と、不動産業者等が物件を買い取ってリフォーム後に販売する「買取再販」の大きく2種類あります。「買取再販」では、販売金額を抑えるために見た目や水回りなどの最低限のリフォームにとどめられることが多く、断熱リノベまでされた物件はほとんどありません。断熱リノベされた買取再販物件が増えたら、市民の方が断熱住宅を入手しやすくなるのではとの思いで、「ミセリノベ」を始めました。この「ミセリノベ」は中古マンションの買取再販のなかで、断熱リノベに取り組んでいただき、そのプロセスを工事見学会や完成見学会として市民や事業者に公開いただく取り組みです。実際に断熱性能が向上した物件が流通されるだけでなく、見学会を実施することで、近隣住民や事業者の断熱性能への関心や理解を高めるといった波及効果も期待できます。
プカ太郎:なるほど。このような取り組みがスタートした背景があると伺いました。
富本さん:神戸市は阪神・淡路大震災(1995年)を受け、震災後に建築された築30年程度の住宅が多いことが特徴で、断熱化によりこれらの住宅ストックの質を上げて、長く使い続けることが重要だと考えています。
プカ太郎:「ミセリノベ」がマンションを対象にするのはなぜですか?
富本さん:断熱リノベの経験がない事業者さんが、高断熱の買取再販に初めて取り組む一歩の後押しになればと考えています。外気に面する窓や壁を断熱すると断熱性能が上がるので、戸建てに比べるとマンションは初めて断熱改修を行う事業者さんでも取り組みやすいと思います。
後垣内さん:マンションの場合、仕様や寸法などある程度規格が決まっているので、同じ工法パッケージとして展開しやすいです。見学会を機に、同じマンション内や近隣エリアで同じような事例が生まれていくのはないかと考えています。

<ミセリノベ 見学会の様子>
富本さん: 同じマンションだとほぼ同じ間取り、同じ悩みをお持ちで、実際に断熱改修の方法を見ることができ、断熱化による効果も実感いただけるので、とても参考になると思います。他のマンションの管理組合の方が来場され、今後の大規模修繕のヒントを得て帰られるケースもあります。
後垣内さん:マンションにお住まいでない方にとっても、「近くの築浅の物件よりも、中古マンションリノベでここまで性能を高められるのか」という新たな気づきを得ていただくきっかけになりますね。
富本さん:最近は住宅価格の高騰を受け、ますます中古マンションのニーズが高まっています。若年世帯にとって性能や価格の面で魅力的な物件となるよう、しっかりリノベーションされた中古マンションが市場流通してほしいと考えています。
「スゴ!家」「ミセリノベ」によって見える未来

<対談の様子>
プカ太郎:「スゴ!家」「ミセリノベ」はどんな成果を生んでいますか?
富本さん:「ミセリノベ」は2025年にスタートしたところですが、多くの市民や事業者の方々に見学会に参加いただき、工事中の現場をすごく細かいところまでご覧になっていて、思った以上に参加者の興味が高く、手ごたえを感じています。
後垣内さん:行政がこうした取り組みを行うことで、「自分たちも断熱に取り組んでみようかな」と前向きに感じていただくことや、取り組みへハードルを感じている際に、神戸市が後ろ盾になることにメリットを感じる事業者さんが出てきたことが大きな成果だと思っています。私たち自身も、参加事業者の皆様からノウハウを聞いたり、学識経験者や医療機関など、住宅事業者以外の新しいネットワークも広がりつつあります。
神戸市の取り組みの“これから”

<対談の様子>
プカ太郎: これらの取り組みを今後はどのようにしていきたいですか?
後垣内さん:取り組みを通じ様々なつながりができているので、広報啓発だけでなく、供給側の意識も高められるようにして、高断熱住宅推進の全体的な底上げができればと思います。
富本さん:断熱化された住宅、あったかい家が当たり前になって欲しいです。
神戸市は阪神・淡路大震災を経て、住まいが安全であるようにということを常に意識していますし、ヒートショックのように温度差で命を落とすようなことがないように、安全で快適な住まいにしたいというのが一つの思いとして大きくあります。市民の方には住宅の断熱や室温に関心を持っていただき、事業者さんには断熱化した住宅の供給やリフォームが当たり前になるよう、行政として後押ししていきたいです。
プカ太郎:「あったかいおうち」が当たり前の世界にしたいですね!
本日はありがとうございました。
※1
2050年までに温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いた合計を実質ゼロにすることを目指す、日本政府が掲げる国家目標。
***神戸市 住まいの断熱化の推進***
https://www.city.kobe.lg.jp/a01110/kurashi/sumai/jutaku/information/dannetsu.html
***神戸市 スゴ!家***
https://www.city.kobe.lg.jp/a01110/kurashi/sumai/jutaku/sugoie.html
***神戸市 ミセリノベ***
https://www.city.kobe.lg.jp/a01110/kurashi/sumai/jutaku/miserinobe.html
















